ショートショート 理想の物件

ショートショート 理想の物件
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物件の案内にきた営業マンは、紹介する物件がいかに良いかを語っている
こちらとしてはもっとゆっくりとしていたいものだ
2分で読めるショートショート

ショートショート 理想の物件

「こちらが今回ご要望の物件なんです。ちょっと駅から遠いですけど、その分落ち着いた住宅街ですし、スーパーも多いので生活の不便はございません」

そうだろう、そうだろう。そこに目をつけてここを選んだんだから。

「一戸建ての庭付きということで、ここまでの物件はなかなかありませんよ」

パリッとしたスーツを着て顔に有能ですと書いてある営業マンは息をつく暇もなく、いかに良いかを語っている。こちらはもっとゆったりとしていたいのだが。

「では、早速中へ」

営業マンはポケットから鍵を取り出し、慣れた手つきで鍵を開ける。今まで何人を紹介してきたんだろう。間違いなく何回も通っている。

「ささ、どうぞどうぞ」

持参したスリッパに履き替えた営業マンを先頭に、物件内への進軍が始まる。ひとりにして欲しいとこだ。

「こちらの玄関はですね……」

営業マンの口調に熱が入ってくる。だんだんと調子が出てきたんだろう。身ぶり手ぶりを交えて素晴らしさを語っている。こちらは注視するのも疲れて、よそ見を始めたとこだ。

「さあ、こちらがリビングで……」

次から次へと言葉があふれる営業マンに閉口しながら、気持ち半ばで話を聞く。自分で選んだんだ、良いに決まっている。ここしかないと思ったんだ。

「どうですどうです、すてきな物件でございましょう。この土地でこのレベルはちょっと他にないですよ」

営業マンはどうにか契約を取りたいようだ。しかし、そう目をギラつかせて迫るのも怖いものがある。その調子だと、客は敬遠するだろう。

「値段はこちらですね」

良い良いと褒め続けた割には弱気な値段を提示する営業マン。

「なぜこんなに安い、ですかえぇ……それはですね……」

急に目が泳ぎだす営業マン。

「いや、実はここだけの話なんですが」

意を決したように、はなしだす営業マン。

「実は以前の住人の方がですね、ここでお亡くなりになりまして」

弱気な営業マンには先ほどの勢いはなかった。

「えぇそうです、事故物件というやつですね。しかしここまでの家がこの値段というのはそうそうありませんよ」

再起を図ろうとするも、志半ばで散ったようだ。

「あっちょっとお待ちください、お客様、お客様!」

慌てて外に飛び出す営業マンを眺めながら俺はニッコリとほほえむ。良かった、俺の終の住処は誰にも住ませない。

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