砂漠の中にただ1本生えている樹
砂漠に訪れるものにとっては癒しの場所であった
しかし、雨の降らない砂漠でなぜその樹だけが緑豊かなのか
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砂漠に一本の樹があった。大樹と言っても過言ではないその樹は、砂漠の中にぽつんと、だが雄々しくそびえていた。樹は巨大ゆえに、砂漠を行き交うものたちの目印となっていた。そして全てのものたちの憩いの場であった。太い幹は砂嵐にも耐え、葉は生い茂り、枝を広く伸ばして、その下に休むものを太陽の日差しから守っていた。水場こそないが、広がった枝の下にいると、暑さが和らぐ気がした。
ある時、砂漠を渡っていた行商人が砂嵐にあい、命からがらその樹の下にたどり着いた。一緒にいた者たちは散りぢりになり、もはや出会う手段はなかった。荷物どころか水もない。万事休すか思われた行商人だが、その樹を見て思いつく。そうだ、植物には水分が必要のはずだ、そうなると、この樹の根を掘れば水分が出てくるのではないか。
行商人は力を振り絞って根に沿って穴を掘り始めた。道具はなく、己の指を土かきがわりに懸命に穴を掘った。しかし掘れども掘れども水分は出てこなかった。落胆以上に疲れが大きい。行商人は穴の中で座り込んだ。
日が暮れて、日が昇る。だが行商人が目を覚ますことはなかった。
行商人は事切れる前に気づいていた、あぁ私が水分になるのだ。
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